◆◇ 秘策炸裂 ◇◆

「…もしかして、プレゼントって…、この事だったんですか…?」

唇を放した後でも、王子の顔は彼女の側にありました。
話すと吐息が体に触れ、くすぐったくも、また幸せでもありました。
「……うん」
エルヴィーラ様は目線を合わせるのが恥ずかしく、王子の肩に額をあてて頷きました。
そして、さっきの仕返しとばかりに拗ねたように言ってみます。
「…でも、喜んでもらえなかった」
すると、彼はばつが悪そうに口ごもるのでした。
「…あれは…。…その、そりゃ、本心は嬉しいですよ。でも…、僕の話を聞いた後だし…、
状況に流されてるのならイヤだなって…」
「……あたし、自分から好きなんて言ったの…、初めてだったのに…」
その言葉に、王子が大いに照れているのが彼女にはよく分かりました。
「……それは…………、…………………ごめんなさい…」
それでやっとエルヴィーラ様も満足するのでした。

「…じゃあ、あんな事しなきゃ良かったかな…」

しばらくそのままでいた二人でしたが、王子がぽつりとそんな事を言い出しました。エ
ルヴィーラ様が顔を上げて、彼の顔を覗き込みます。
「…仮面を取らなければ…、…婚約解消しなくて済んだのになって…」
王子は寂しそうに言いました。エルヴィーラ様はそれを聞き、ついにローランの秘策を
出す時が来たのが分かりました。
「…解消…、する必要なんて、ない、わよ…」
今度は王子がエルヴィーラ様を覗き込みます。
「…だって、あたし達婚約なんてしてないもの…。してないものは解消出来ないじゃな
い」
「…――?」
王子にはまだ分からないようです。
「…あたし達は、今日の婚約の儀式で正式な婚約を結ぶはずだったのよね?」
「…ええ、それは……。あ!」
やっと気が付いたようです。
「つまり、仮面を被っていた時は、婚約は成立してないのよ。だから仮面を取っても解消
する必要なんてない、違う?」
「…それは…」
王子は何かを言おうとしますが、エルヴィーラ様はそれを許しません。
「だって、仮面の話は王子の作り話じゃない! あんな事をしなきゃいけないって勝手に
決めたのは王子自身で、しかもあれは即位の時のしきたりじゃないの! ここまで言って
も、自分で作った決まり事をクリアしないとあたしと一緒になる自信がないって言うんだ
ったら、あたしは儀式の前にちゃんとあんたに今日言う事を言ってるわ! だから全然問
題ないもの!」
彼女は一気にまくし立てましたが、やはり王子は困ったような顔をしています。有言実
行の抜け穴の指摘は、確かに効いてはいるようですが、この王子が決めた事を覆すには、
もう少しパンチを利かさないと駄目のようです。
「――わかったわ! それならあたしの方からあんたに求婚を申し込めば良いんでしょ
う! これで文句はないわね!」
この申し出には、王子を驚かせる効果があったようです。
更に――
「あたしはあんたのお妃様になるってもう決めちゃったんだから! 誰が何て言おうが、
ジラルディーノにはぜーったい戻りませんからね!」
エルヴィーラ様は真っ赤になりながら、最後の取って置きを繰り出しました。
さすがにそれを聞いた彼は、まるで花が開くかのように、照れながら顔をほころばせま
した。そして…。
「…僕も、あなたと離れたくありません」
そう言うと、顔を再び彼女に近付かせます。エルヴィーラ様はゆっくりと目を閉じて王
子を待っていましたが、唇が触れる直前に、彼は小さく、そして早口でこう言ったのです。
「僕と、…結婚してください」
言い終えると、二人は先ほどよりも長く、そして甘い口付けを交わすのでした。

続く